小さな奇跡

キョウエイボーガン

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華やかな競馬。
ファンに応援されて、関係者の希望のもとに走る馬たち。しかし、引退後も現役時代と同じように愛される馬はごくわずかだ。
「君はもう明日から来なくていいよ」
この不況の時代に肩を叩かれた人も多いだろう。しかしながら、競走馬にとってリストラは日常なのだ。人からも、誰からも見放されて、生きる権利すら奪われていく馬たち。
彼らはそのとき何を思うのだろうか?

「キョウエイボーガンが生きているよ」
競馬好きが集まった席で、ある人がこうつぶやいた。
「キョウエイボーガン? ・・・なんか聞き覚えはあるけど・・・」
そこにいる誰もがそう感じていた。
キョウエイボーガンと言えば・・・

平成4年11月8日、京都競馬場。菊花賞(GI)

その日は朝から異様な雰囲気に包まれていた。ファンはともかく、日頃競馬には見向きもしない人々でさえ、テレビに注目していた。無敗の二冠馬ミホノブルボンが、三冠をかけて出走してきたのだ。誰もが歴史的瞬間に立ち会えることに興奮していた。

ゲートが開いた。
いつもスタートから先頭に立つミホノブルボンだが、この日は違っていた。ミホノブルボンを交わして先頭に立った一頭の馬。
それがキョウエイボーガンだった。
いままでにない競馬を強いられたミホノブルボンは、我を忘れてキョウエイボーガンを追いかける。キョウエイボーガンは抜かせまいと更にスピードアップ。過酷なバトルに根をあげたキョウエイボーガンは、4コーナーでミホノブルボンに交わされた。
最後の直線、先頭に立ったミホノブルボンだったが、彼ももう余力は残っていなかった。
「あー」
場内がどよめく中、最初にゴール板を駆け抜けたのはライスシャワーだった。ミホノブルボンは2着。
そして、ファンや評論家までもがこんなことを言い出した。
「キョウエイボーガンのせいだっ! キョウエイボーガンがミホノブルボンの三冠を台無しにした」と・・・

「キョウエイボーガンが生きてるって?」
それがどういう意味なのか掴みかねた私は彼に聞いた。
「岡山の主婦が買ったんだって」
この答えを聞いたときの衝撃は今も忘れない。誰からも見放された馬、忘れ去られた馬だった。しかし、たった一人見放さなかった人がいてその人がキョウエイボーガンを救ったと。
世の中にはこんな話があるのか・・・
という衝撃は計り知れないものだった。
そしてふと考えたこと・・・
「その人にあってみたい」
漠然と、ただ漠然とそんなことを思っていた。

悪役となったキョウエイボーガン。果たして彼は本当に悪役だったのか?菊花賞の逃げはあきらかにハイペース。あんなレースでは勝てるはずもない。
だから人々は口々に
「ミホノブルボンを潰すためだけに走った」とか
「テレビに映りたかっただけじゃないの?」なんて言われた。
しかし、キョウエイボーガンにとってあの逃げは勝つためのレースだったのではないか?
菊花賞の前に彼が走った2戦を振り返ってみる。
秋緒戦の神戸新聞杯(GII)
このレースではスタートからすんなりと先頭に立ち、最後の直線で二の脚を使い2馬身差をつけ勝利。マイペースの逃げなら、この馬はしぶといことを示した。
そして次、京都新聞杯(GII)
キョウエイボーガンとミホノブルボンが激突。どちらも逃げ脚質なだけに、どちらが逃げるのかに注目が集まった。
レースはすんなりミホノブルボンがハナを切り、キョウエイボーガンは2番手に控えた。結果はミホノブルボンの圧勝。キョウエイボーガンは10頭中9着。
これらの結果から導き出された答えは・・・
キョウエイボーガンにとって勝つためにはどうすればよいか?
「逃げるしかない」
キョウエイボーガンは菊花賞で逃げた。それはテレビに映りたかったわけじゃない。悪役になりたかったわけでもない。万に一つの可能性に掛けたのだ。それが勝つための唯一の手段だったから。その証拠に菊花賞ではハイスピードでハナに立ったキョウエイボーガンはホームストレッチに入ったときにスタミナ温存するために、ペースダウンしようとしているのだ。しかし、そこへミホノブルボンが襲いかかってきたため、ペースを落とすことができず、結果として3コーナーでバテてしまった。ただ、それだけのこと・・・

月日は流れて・・・

私はいつものようにネットサーフィンをしていた。そして辿り着いた一つのサイト。それは何の変哲もない猫のサイトだったのだが・・・このサイトの項目の一つに「坊のこと」というのがあった。「坊」という文字を見た瞬間に、直感的にキョウエイボーガンのことが頭に浮かんだ。まさに、あの会いたいと思っていた“馬を買った主婦”のサイトだったのだ。

そして、私は縁あって彼女にお会いする幸運に恵まれた。想像以上に素敵で夢のある方でした。
平成14年11月、それはまさにあの菊花賞からちょうど10年目の節目の時のこと。
キョウエイボーガンという一頭の馬がもたらした、ほんのちょっとの小さな奇跡だったような気がしてならない。

 

Special thanks Yumeko
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2003/03/09

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